、愚な話しではあるが一月のうちに生命が危ふいとか言つたさうな、聞いて見ると餘り心よくも無いに當人も頻と嫌がる樣子なり、ま、引移りをするが宜からうとて此處を探させては來たが、いや何うも永持はあるまいと思はれる、殆毎日死ぬ死ぬと言て見る通り人間らしい色艶もなし、食事も丁度一週間ばかり一粒も口へ入れる事が無いに、夫ればかりでも身體の疲勞が甚しからうと思はれるので種々《いろ/\》に異見も言ふが、何うも病ひの故であらうか兎角に誰れの言ふ事も用ひぬには困りはてる、醫者は例の安田が來るので斯う素人まかせでは我まゝ計《ばかり》つのつて宜く有るまいと思はれる、私の病院へ入れる事は不承知かと毎々聞かれるのであるが、夫れも何う有らうかと母などは頻にいやがるので私も二の足を蹈んで居る、無論病院へ行けば自宅と違つて窮屈ではあらうが、何分此頃飛出しが始まつて、私などは勿論太吉とqと二人ぐらゐの力では到底引とめられぬ働きをやるからの、萬一井戸へでも懸られてはと思つて、無論蓋はして有るが徃來へ飛出されても難義至極なり、夫等を思ふと入院させやうとも思ふが何か不憫らしくて心一つには定めかねるて、其方に思ひ寄も有らば言つて
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