時のさまの再び現にあらはるゝなるべし。
おいたはしき事とは太吉も言ひぬ、お倉も言へり、心なきお三どんの末まで孃さまに罪ありとはいささかも言はざりき、黄八丈の袖の長き書生羽織めして、品のよき高髷にお根がけは櫻色を重ねたる白の丈長、平打の銀簪《ぎんかん》一つ淡泊《あつさり》と遊して學校がよひのお姿今も目に殘りて、何時舊のやうに御平癒《おなほり》あそばすやらと心細し、植村さまも好いお方であつたものをとお倉の言へば、何があの色の黒い無骨らしきお方、學問はゑらからうとも何うで此方《うち》のお孃さまが對にはならぬ、根つから私は褒めませぬとお三の力めば、夫れはお前が知らぬから其樣な憎くていな事も言へるものの、三日|交際《つきあひ》をしたら植村樣のあと追ふて三途の川まで行きたくならう、番町の若旦那を惡いと言ふではなけれど、彼方とは質《たち》が違ふて言ふに言はれぬ好い方であつた、私でさへ植村樣が何だと聞いた時にはお可愛想な事をと涙がこぼれたもの、お孃さまの身に成つては愁《つ》らからうでは無いか、私やお前のやうなおつと來い[#「おつと來い」に傍点]ならば事は無いけれど、不斷つゝしんでお出遊ばすだけ身にし
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