聴き取ったのは、外神田佐久間町辺の何某というゾッキ屋と、内神田表神保町の何々社というゾッキ屋との二軒である
先ず甲の主人は語った所を略記する
「去る三月、円本のゾッキを扱う皮切り、前例が無いのだから儲かるに違いないと云う予算で、一円五十銭の上製本を一冊四十銭の割で買い、一円本を二十銭の割で買いました、総高が三万円です、トコロが案外、サッパリ売れませぬ、最初は四十銭のを六十銭、二十銭のを三十銭の卸売ということにしたのですが、夜店出しは勿論、各地方の本屋が買わない、そこで六十銭を五十銭に下げ、三十銭を二十五銭に下げましたが、それでも売れない、昨今は原価に足りない三十五銭、十八銭という損をした安値をいっても買人なしです、在外邦人へ向ければ売れるだろうと思って、米国に荷出をして居る名古屋の何某へ見本を送りましたが、在外邦人も内地と同じく、円本予約の破約者が続出で、取次店が困って居る際だから、安価の残本だといっても、送り付けはダメです、なにしろ米国では一円本を送費かけて一円四十銭位に売らねばならないのですが、ゾッキの残本でも向うへ送れば一冊一円位に売らねばならず、出稼人は多くても、購買力のない文
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