た出版元は青く成ってアヤマリ「それは御尤であるから、予定の冊数を完全に出版した後でなくば、残本安売りをいたしませぬから、ドーゾ不相変」と一同が平伏して無事に落着したのである、これで完成後は安売りする事を明言して居るのである、此時談判された出版屋の一人たる神田の某社主人が「実は安売りしたのではありません、ゾッキ屋某へ抵当として入れてあったのを期日までに行かなかったのを口実にしてそのゾッキ屋が当方へ無断で揃物だけを安売したのであります」と弁解したそうであるから、著者は其のゾッキ屋の主人に逢い、無断で売ったのか否かを糺して見ると、其主人は「抵当に取ったのではありません、初めから買切です」と明確に答えた、いずれが真であるにしても、出版屋の窮状は此一事ででも察し得られるであろうが、不思議なのは、其出版屋某が、倒れもせず今に継続して居る事である、其後ドコからか金主を見付け出したのか、又はウマク遣繰して、平凡ながらも余命を繋いで居るのであろう
さて完成後は安売りする事になっていても、何処のゾッキ屋も買わないであろうから、如何に処分するかが問題である

残本を買取ったゾッキ屋主人の後悔談
著者が親しく
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