ば萬感が湧き起る
黒くしめつた空地には一杯青い平べつたい草が萌え出した。
踏むのが勿體無い氣がする
何故なら其處には幸福がある氣がするから
何と云ふ靜かさの中に
自然が春を裝ふのだらう
木も草も空も萌えた色をしてゐる
夢のシインのやうだ。
昔の人が空に浮ぶ雲を女神の衣裳に例へたのも道理だと思ふ。
自分はこの春の仕度にいそがしい
萬物の中を一人家を出てさまよひ歩りく
至る處に自然の惠みを感じる
疲れ切り乾ききつた自分の體の骨に感じるやうに
柔げられた春は外から浸み込み
内には萬感が起る。
恨みも反感も、憎みも本當に消えてしまふ。
あれは皆んな體が惡かつた故の氣がする。
人々の上を思つて涙ぐみ、幸福を祈る
有難い春だ。
まつたく攝理を示してゐる
然し或日、
自分は尚冬の名殘の淋しさがそこらに見える郊外を歩いた。
自分の心は洗はれた。しみ/″\した。
然うして思はぬ遠歩きをして場末の街道の方へ出た時
自分は道の向ふを來る亂髮のぼろをまとつた女と、
その手を曳いて六歳位の男の子が來るのに出會つた。
自分は「うん」と唸つて立止つた。
目がくらんでしまつた。
つむじ風に身體を卷かれたやうに
腹の内
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