然うして金を手の内に握つた儘、渡す事が出來なかつた。
そこへどこかから一枚の藁を女が引ずつて來て
「これ切りないのだから之で堪忍して下さいよ」と云つた。
彼の男は禮を云つた。
然うして足の方が寒いから足の方へかけてくれと云つた。
女はその通りにした。
「贅澤な奴」と書生は苦笑した。
彼はもう默つてしまつた。落着いて眠る樣に
然うして皆んな去つた。
青年もプイと去つた、心が變つた樣に
然し青年の胸には彼の云つた言葉や動作が殘つた
その切れ/″\のふるへ聲が殘つた
彼にはあゝ云ふ權利があるのかと青年は考へた
自分を貧乏の書生と思つてあゝ云つたのか
彼には本當の事がわかるのだらうか、
然う思つて青年は恥づかしい氣がした
然うして未練に責められ乍ら
ふと晴れ渡つた空を見て
「地面の方が人間より暖いだらうな」と云ふ考へが浮んだ。
青年は彼の言葉を思ひ出す度びに涙ぐんだ
自分の不甲斐なさを感じた。
彼の卒直な我儘は自分の餘裕のある慈善心より本當だと思つた。
彼は本當の事を教へてくれたと思つた。
[#地から1字上げ](一九一八、三、二七)
夢のシイン
あゝ春だ。日は未だ淺いけれど
地面を踏め
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