の隅の小さな家の窓が開いて
女が首を出して何か云つた
泣き聲に向つて。
[#地から1字上げ](三月二十八日)

  子供

あゝ何と云ふ小さく子供が見えるのだ。
未だ三歳だから
日の光りの中で
うつかりすると見失つてしまふ程小さい
だが、あの眼、鼻、口に現はれる魅力
何と云ふ大きな愛が現はれるのだらう。

  我儘な男

寺の前の石塔のかげに彼は眠つて居た。
冬の夜更けに
彼は晝間の間其處で本を賣つて居て冷えこんで動けなくなつた。
彼は梅毒を患つて居た。
彼は商品を包んだふろしき包みを枕にして地の上へ眠つた。
一人の青年が近づいて彼の容體を聞いて
金を與へるから馬車に乘つてかへるか
酒を飮んで暖をとつたらとすゝめた。
彼は青年の近づくのを待つてゐた樣に
藁を買つて來てくれと卒直に頼んだ。
彼は動く事は出來なかつた。
青年は町を走つて行つた
丁度今戸を閉めようとする米屋へ行つて藁を賣つてくれと云つた。
米屋には藁がなかつた。
青年は困つた。
道の上に立つて見廻すと皆んなどこの家も戸をしめてゐた。
青年は彼のところへ引返して
「藁がないが如何したらいゝだらう」と云つた。
彼は「無い筈がない
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