てゐるのがあり/\見える
然うして乘合馬車が、
往來の上に水のやうな空氣の中に二つのランプを輝かして走つて行く
何と云ふ慕しさだ。何と云ふ窮屈のない事だ。
[#地から1字上げ](一八、三、一九)
春
春が來た
夜は尚夥しい霜で大地がコチ/\と凍るのに
晝間はもう全く春だ
往來には空氣も人も流れ出した
不思議な一大氣體が日に日に此の世の岸に漂着して來る。
温い湯のやうな空氣が際限も無い空の
はるか遠い、遠い處から
太陽の周りから、自由自在に流れて來る
少しづゝ此世の空氣に微妙に温みを
そゝいでゐるのが目に見えるやうだ。
歩いてゆくと身體に附いてゐた
騷ぎがばつたり靜まつたやうな氣がする
自然の靜かさが萬物を領す
何處までも景色と一緒に歩いて行ける
自由自在に空氣と一緒に流れてゆく。
然うして幾度も、幾度も、
自分の身の内が外の空氣の靜さを感じたり
景色の美しさに魅せられて驚きをくりかへす
その度びに春だと思ふ
雪の日
今暫らく往來は靜かだ。
雪は止んでゐる
人が泥濘を氣をつけ乍ら
ゆつくりと歩いてゐる
向ふからこつちへ來る人の行き惱んだ姿と、
自分の足下をかはり番に見乍ら
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