そこらが急に淋しくなる
くねつた桑の木の行列も淋しさうに生えてゐる
空は色褪せて灰色に見えて來る
自分も疲れて來る
こゝらは景色がひろすぎる
街の方へ引返へす
[#地から1字上げ](一九一八、三、一九)
小景
爽やかな夕方の往來で
自分は都會から歸つて來る勞働者を迎へる
二人づゝ、或は一人づゝ
長い一本道を歩いて來る。
町の眞中をやつて來る
その輕々しい歩みぶりよ、
彼等は黒いはんてんに股引、足袋はだしで
身も輕く身分も輕く
夕闇の中を涼しく歸つて來る
何か友達と並んで話し乍ら、
道の兩側の古着屋や道路より低い時計屋等に
自由に目をくれ乍ら靜かに歩いて來る。
苦るしみのうしろにある深い喜びを
本當によく解して味つて居るやうに
本當に自由な時間と云ふものを知つてゐる樣に
こゝらはもう全く彼等の領分だ。
大手をふつて歩けるのだ。
夕風の吹いて來る方には妻や小供が待つて居る
夕闇の中で顏は見え無いが自分は彼等を知つて居る
彼等は寛大で柔和である。女も小供も彼等になつく
空には田圃が近いので夜かせぎに圓こい鳥がセツセと飛んで行く
見榮もなく翅の破れたのや
拔けて落ち相な羽をぶらさげ
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