ねりの春らしい美くしさ、朝らしい靜かな喜び、
空は光りをはらんで霞んで居る。
眠りから覺めた許りの地面は
しつとりと汗を掻いてゐた。
人通りは未だすくない。
空に消えてゆく水蒸氣の中から雄大な景色が目ざめ
だん/\遠くの方がはつきりして
そこから人が現はれて來る。人數も殖えて來る
この大きな朝の世界に比べれば、
可笑しいほど小さい人間が
鳥のやうに、思ひ/\の方向へ歩いて居る
自分は擴大され、變化された
大きな祝福に滿ちた朝景色の中を
面白く嬉々として歩いてゆく。
[#地から1字上げ](一九一八、三、使命所載)
夕暮
夕暮
天上は騷ぎだ。
太陽が沈む波動で
上騰して居た空氣が穴を明ける。
その中で空は青い眼を閉ぢる樣に
衰へ乍ら、幽かにふるへて此世から遠退く。
今見てゐるのは幻のやうに。
地上は靜かだ
擴大された道路の上に
人間は安らかに、靜かに歩いて居る。
佇んだり、しやがんだり、歩いたりして居る
ある可き處にある樣に
眞實に美くしくいろ/\の形をして居る。
そこへ寒い風が落ちて來て至らぬ隈も無く吹き廻しては消えて行く。
攫れたやうに人が居なくなる。
空は見る見る燃えつきて暗
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