全く奇蹟だ。
この澤山の落葉は生命の過剩を思はした。
然うして大地と落葉との輕い接觸點に
自分は滲み出すやうな愛を感じた。
大地はその落ちた葉の中に埋れて靜かにそれを載せて浮んで居た。
動かない光りの中に。

  格鬪

或る夜、月は傾き落ちて
空には春が來るらしい底知れ無い青い光の反射の中に
星は紅色の魚のやうに
落ち相に低くたゞよつて居た。
自分は一人で烈しい霜解け道を惱んで歩いた
まるで登山でもする樣に
二三寸の土の上を上つたり下りたりした。
自分は突然大地と爭つてゐる愉快を感じた
自分は可笑しくなつて笑つたり、怒つたりし乍ら
長い間かゝつて一つ道を歩いて行つた。
至る處で大地とこね合つた。
笑ひ崩れ乍ら、倒れたり、起き上つたり
格鬪し乍ら歩いた。
家へ歸つても尚自分は笑つてゐた。

  朝

朝だ。
重々しいものを優しく包んだやうな莊嚴な朝だ。
自分は山の上にでも居る樣に、
心は輕く歩いてゆく。體はそれに從つてゆく。
一日一日春らしく温くなる水蒸氣に包まれ
樹々はうねりを生じ輕快に高く空に立ち上り
靜かに道の上に枝を垂らして居る。
まるで空中から舞ひ下りた天使のやうだ。
このう
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