火は衰へて沈み行き
火の壯なる時、雨は衰へ
烈しき雨とめぐる火と
明滅する刹那
闇の中に美くしく濡れて立つ何本の木を見る。
靜かな光りが梢に蛇のやうにまつはつて居る。
自分は雨戸を貫いて木と相面したやうに感じる。
光りの座の上に相抱いたやうに感じる。
あゝ氣がつけば相撲ち、明滅する
闇と光りの美くしさ
雨よ降れ、火よ燃えよ
光りを生む爲め永劫に衰へるな。

  朝

朝、
清淨な火の風はよろづのものゝ上に吹き渡り
人も木も鳥も凡てのものが皆默つて戰きを感じる
非常な靜かさが空の頂天から地の底まで感じられる
棒のやうに横ふ雲も隅の方にかたづけられて
空にはあちらこちらで
白熱した星がくるくると廻轉し乍ら
すばらしい速力でかけて行く
然うして
消えるものは消えて行き
天の一方がにはかに爆發して
血管が破れたやうに空に光りが潮して來る。
自ら歡喜が人の身に生じる。
にはかに一齊のものに暖い活氣が生じて來る
かゝる時初めて見上げた空の感じは忘られない
人は空の頂天から地の底まで。
火の通じてゐるのを感じる。

  夜

鐘が鳴る。
一日の終りの
街のどよめきの上に
今太陽は朝よりも大きく輝いて
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