乳

母親の乳の張つて痛んで來る時
小供の腹は餓ゑて來る。
與ふる者と與へられる者は、
一つとなつてしつかりときつく抱き合ふ。
乳はひとりでに滿ち溢れ出る
赤ん坊はむせかへつて怒る、
母親はどうする事も出來ないで氣を揉むが、乳は出過ぎる。
遠慮なく響いて出る
充ち滿ちて出過ぎる苦しさ。
與ふる者の苦るしさ。
赤ん坊は母親と苦るしんだ上句、
自然に響いて來るのをごくり/\と呑む。

  人形

赤ん坊は淋しい、
何となく淋しい
未だ口もきけないで、僅かに聲を立てゝゐる赤ん坊は淋しい
居るか居ないのか解らないやうにおとなしいから。
眼をつむつたり、開いたり
泣くのにも笑ふのにも
まるで人形のやうに、内の命じるまゝにおとなしく從つてゐるから。
見て居ると涙が湧いて來る
尊いものを見た時の樣に。
[#地から1字上げ](一九一六、一二、二九)

  眼

眼よ、眼よ、不思議な眼よ。
赤ん坊の眼の動かぬ時の凄さ
充ち滿ちて溢れるものに迷ふ畏怖の眼だ。
何かゞ赤ん坊を内から動かしてゐる氣がして來る。その眼!
眠りから覺めた時によくする
苦るし相な目、生氣に滿ちたあの悲しい眼!
自分は眼を閉ぢ度く
前へ 次へ
全102ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
千家 元麿 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング