える。一寸頭を下げる。
白いつゝみを脊負つた洗濯屋の小僧が立止つて門内を見てゐる。
番兵は暇さうに石甃の上を行つたり來たりしてゐる
鐵砲なんか捨てゝノコ/\往來に歩き出しさうだ。
然し筋向ひの西洋料理屋の門前の
少し日の當つた石の上に
顏は見え無いが未だ若相な女が
赤い帽子の赤ん坊を落ちないやうに窮屈さうに
腹をこゞめて帶を締め直して居る。
これからうんと歩く用心に
その側に五つか六つ位の帽子も冠らない未だ頑是ない男の子が、
御母さんの方に體を寄せ乍ら、眼はボンヤリ往來を見てゐる。
親子とも汚ない風だ。
この寒中に白つぽくなつた水色の着物を着てゐる。
その代りやたらに重ねて着てゐる
無論持てゐるだけの着物を着てしまつてゐるのだ。
だがねんねこは無い、白い紐にぢかに子供を脊負つてゐる。
自分の眼には出しぬけに涙が湧いた
今迄のいゝ氣持はとんでしまつた。
何處へ行く女だ、
歩いてこの電車の果てまでももつと先きまでも行くのではあるまいか
もう餘程遠くから歩いて來たのではあるまいか。
坂を上り切つたので疲れて息を入れてゐるのだ。
人を頼つて行くのではなからうか
男に棄てられた女か、夫に死に別れ
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