び!
木の音の行列、夥しい星の歌、一粒撰りの新しい音色!
天の戸をくる喜びの歌、朝の歌!
氣の揃つた一團の可愛ゆい、小さな百姓車の行進曲!
[#地から1字上げ](一〇、二五曉、愛の本所載)

  わが兒は歩む

吾が兒は歩む
大地の上に下ろされて
翅を切られた鳥のやうに
危く走り逃げて行く
道の向ふには
地球を包んだ空が蒼々として、
底知らず蒼々として日はその上に大波を蹴ちらして居る
風は地の底から涼しく吹いて來る
自分は兒供を追つてゆく。

道は上り下り、人は無關係に現はれ又消える
明るく、或は暗く
景色は變る。

わが兒は歩む
地の上に映つた小さな影に驚き
むやみに足を地から引離さうともち上げて
落て居るものを拾つたり、捨てたり
自分の眼から隱れてしまひたい樣に
幸福は足早に逃れて行かうとする
われを知らで、
どこまでも歩いて行く。その足の早さ、幸福の足の早さ、
道の端の蔭を撰んで下駄の齒入れ屋が荷を下ろして居る
わが兒はそこに立止る。
麥藁帽子のかげにゐる年寄りの顏を覗き込み、
腰をかゞめて、ものを問ふ
齒入れ屋は、大きな眼鏡をはづして見せ、
機嫌好く乞はれたまゝに鼓をたゝく。

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