汽笛や不平な野心の逞しい機械の音より
どの位、
御前の勤勉な盡き無い木の音の方が俺は大好きだか知れないぞ、
前にゆくものゝ音を受けついで、後から來る者に傳へて、
赤兒のやうに生れて來る、
汝の盡きる事なく繰り出す音は
此世のものでは無い、天上のものだ
喜びだ、勝どきだ。

おゝ又氣がつけば賑やかな、いつも機嫌な木の輪の音の群
滿ち、溢れ、盡きずくり出して來て
ぴつたり跡を殘さず消えて行く自信のある歌ひぶりよ神來が來り、
大擾亂を呈して過ぎ去つたあとのやうに一つも殘さず、
漏れる事無く歌ひ終る。
無數の木の輪の音、
わが愛す、喜びの歌、
平易で味の無いやうで
無限な味の籠つた
天の變化にも追ひ付く、單調な喜びの歌、
天來の音、呱々の聲
簡單で完全な、よく洗はれた、手入のいゝ、親切な車の輪の音、
氣の揃つた賑やかなコーラス
毎晩來てくれ、
毎晩調子を揃へて繰り出して來て呉れ
巣鴨の大通りを田舍からつゞいて來る
無數の百姓車の木の輪の音、

俺は毎晩待つて居る。きつと氣がつく
御前の來るのを待つのは恐いけれど
來てしまへば俺は元氣づいて躍り出す、
氣がつけば引つきり無しに遣つて來る、神來の喜
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