い息をついて搖れ返り
過度の勢ひで來過ぎたやうに
少しづゝ目だた無い樣にあとじさりをし乍ら
中心を保つてらん/\と澄み渡り
その周圍の炎えるやうな空氣の中を
星を乘せて來て不用になつた魔法の翅の
雙ひ蝙蝠が
餘り遠くへ離れ無いで
地に觸れて盲のやうに夢中に歡喜して飛びめぐる。

又此方の原の上には
何處から出て來たのか
眞黒く焦げたやうな人影が
無數に入亂れ、高くなり低くなり、現はれ、消え
列をつくり
前に行く者をじれつたく思ふやうに追ひ越さうとしてのめり、
重り合つて急ぎ列を亂し、廻り道をして行く者もあり。
あらゆる方向に我れ勝ちに
不思議な力でいそぐ。

又此方の庭園の靜かな黒い木の間からは
忽然として大きな滿月が
ほとんど地に觸れて
靜かにせり上り
早くも、黄色い暖い光りは
富める家の奧深い茂みを越して
おしやべりに夢中で裏手の往來を行く
同じ年頃の氣の合つた四人の若い女工の
白い顏や地味な姿にはつきりと照りつけて
鳩の胸から出るやうな感嘆の聲を發さしめた。

かくして凡てのものが
何か完うする爲めに
いそぎ、競つて
我れ勝ちに
神の速力をもつてその任務につく
この夕暮の不思議な
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