場の内部のごとく
自分の胸は早鐘を撞き
不思議な譯のわから無い歡喜に燃えて歩む。

自分の腕の上には子供がゐる。
子供は自分の手の上から、地上に下り度くて
もがくけれど
次々に忙しく變る景色に心を奪はれて之れも忘れ
小さな體の方向を手の上でくりくり更へて
黒眼を燃やし
餘りに近く行き交ふ人を眺め、それに交る馬や犬を見出して
天文學者が新しい星を發見したやうな奇妙な喜びに興奮して
自分に指し、叫んで、告げる。

天の一方には
久しく待れたものが滿願に達し
然かも惜し氣も無く成就されたものを燒き棄てるやうに
眞赤に燃えた巨大な雲の五六片が
亂雜に一つ所に積み重つて崩れ
その前には今にも燃え移りさうに
數本の木立が明るい反射を受けて、はつきりとそよいで立ち
葉の落ち盡した枝や梢は白熱して
灰のごとくふるへつゝ眩ゆく輝き
燃え切ればくづれ落ちるごとく立ちつくし
ずつと遠くには火の子のやうに彼方此方を星がとぶ

又見る、此方の青黒い原の上には
いつの間に此處まで來たのか
恐ろしい速力を有つて
大きな金星が餘り眞近く來て
其處にぴつたりとゞまり
逸早く先驅者の使命を完うしたやうに
清い焔のやうな熱
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