兵隊が澤山通つたあとの獸の皮の匂ひのやうに
然うしてサラ/\サラ/\と毛の戰く音がした。
臆病な、早くも死を嗅ぎつけた魂の顫へる音だ。
大小、七八匹の犬が赤や黒や白いのが一つ隅つこにかたまつて
サラ/\サラ/\と毛の音を默つてふるはして居た。
淋しい日の目もくらい音だ。
別れの音だ。
俺の飼犬はゐなかつた。
助つた。
だが、如何うして俺は皆んな戸を開けて逃がして遣らなかつたらう。

  空中の詩

今日は久しぶりの天氣だ。
だが風が冷たい。一月二月頃の風のやうだ。
どこかで凧をあげてゐないかと思はれる。
久しぶりに子供を連れて散歩する。
原に行くと、遠く富士とその連山が見えた。
目に見えぬ風は空中に滿ち、雲は皆んな動いてゐた。
冷たいけれど、ぢつとしてゐると日は暖く、
凡てのものがそのまゝに生きた詩だ。
自分の心は透明になつて空中に聳える高い富士や
その他の山々の姿を恐ろしく感じた。
道へ出れば、
小學校がへりの子供が、二人、三人づゝ組んで、
何か聞え無いが話し合つて來た。一人が聞き一人が饒舌つて
女許りの群が通つた。一人は母親らしく二人は※[#「女+(「第−竹」の「コ」に代えて「ノ」
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