つた。
子供は誰かこゝに囚はれた人を迎へに來た。
その妻がつれて來たのだ。
俺はこの若い犯人の心の裏を云ふのは廢めよう。
餘りにわかり過ぎてゐる。
その前の晩だ。
往來で三十錢許り入つてゐた蟇口を拾つて、
つかひもしない内に捕つて、
四日間とらはれてゐた勞働者が放還された、
彼は妻が子供をつれて遠い町から朝早く
「貰らひ」に來た時の事を俺に話した。
放還される前の晩の隱し抑へた嬉しさから、
俺に話した。
子供にこんな所を見られたのが恥しいと云つてゐた。
そしてこゝを出たら妻や子をうんと喜ばしてやると、
腹の底から平和と團欒に餓ゑた若い勞働者は、
目の前に見える放免を喜んで、
驚く程の親切を本當の良心から俺に示してくれた。
然うして「十日や十五日は何でも無い、あの人は君十三年だよ」
と云つて笑つた。
あゝ俺は忘られ無い、
あの十三年行つた男が、
雨、風にさらされ、あらゆるものに虐げられ、
戰つて來た兩手の筋を力を罩めてさすり乍ら、
その蒼褪めた兩手を眺めつゝ誰に云ふとも無く、
「もうすつかり駄目になつてしまつた」と云つて、
自分の體をかこつたのを、
然うして牢に馴れた人のやうに體を運動さ
前へ 次へ
全102ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
千家 元麿 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング