も見榮も忘れて、
露骨にあり餘る心配を人に見せて、
然うして朝、人々にくるりと脊を向けて、
二三寸離れた壁の方を向いて、きちやんとかしこまつて、
一心に何か禮拜した老人、
俺はそこに老人の一家のものを浮べた、
老人の小さな家の神棚を思ひ出した。
(毎朝さうして拜んでるだらう。)
自分は又そこにいかめしい法廷の光景を見た、
然うしてこの老人の爲めに重い罪が少しぽつちでも
宥される事を願つた。
この小柄の老人が何を欲してゐる?
それは少しの同情だ。罪の輕くされる事だ、
それよりこの老人の重い重い心のつかへに
なつてゐるものがあるものか、
それより屈托する慾望があるものか、
法官よ、彼に同情してやれ、
このずる相な頬骨の出た前科者の老人に、
自分に托け切つたこの小さな老人に、
ほんの輕い罰を與へて喜ばしてやつてくれ、
彼を踏みつぶす事位わけのない事は無いのだ。
おどかすな、おびやかすな、戰々としてゐるこの生ひ先き短い老人に
二三十分過ぎてから又子供の聲がした。
若い犯人は、
「おやまだゐるね」と又老人に話しかけた。
然うして同室の人々の顏を初めて見廻した。
俺は凡てがあり/\わかつたやうに思
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