其の病的な幸福を、露骨な笑ひを止めて呉れ』
不幸な人は呟けど
夜もすがら幸福は眠れる者を去らず
病める者の耳を離れず
氣がつけばます/\露骨に話し合ひ、囁き、笑ひ
誘ひ込む樣に夜は騷しく更けて行く。
[#地から1字上げ](一〇、九)
白鳥の悲しみ
美しく晴れた日、
動物園の雜鳥の大きな金網の中へ
園丁が忍び入り、
白鳥の大きな白い玉子を二つ奪つて戸口から出ようとする時
氣がついた白鳥の母は細長い首を延して朱色の嘴で
園丁の黒い靴をねらつてついて行つた。
卑しい園丁は玉子を洋服のポケツトに入れて
どん/\行つてしまつた。
白鳥の母は玉子の置いてあつた木の堂へ默つて引返へし
それから入口に出て來て立止つて悲しい聲で鳴いた。
二三羽の白鳥がそれの側へ首を延ばして近寄り
彼女をとりまいて慰めた。
白鳥の母は悲しく大きな聲で二つ三つ泣いた。
大粒な涙がこぼれる樣に
滑らかな純白な張り切つた圓い胸は
内部から一杯に搖れ動き、
血が溢れ出はしまいかと思はれる程
動悸を打つて悶えるのが外からあり/\見えた。
啼かなくなつてもその胸は痙攣を起して居た。
その悲しみは深くその失望は長くつゞいた。
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