關つてやらうと思ひ乍ら
ハガキに氣をとられつゝ
自分はNの『哀れな少女』の初めの一頁を息を殺して讀んだ。
然うしてあとを樂しみにして
幾度も自分を待つて呼んでゐる食事にいそいだ。
ハガキと原稿は自分の懷と袂に本能的にしまはれた。
自分は元氣に
妻や子供に、原へ連れて行つてやると云つた。[#地から1字上げ](一〇、一四)
飯
君は知つてゐるか
全力で働いて頭の疲れたあとで飯を食ふ喜びを
赤ん坊が乳を呑む時、涙ぐむやうに
冷たい飯を頬張ると
餘りのうまさに自ら笑ひが頬を崩し
眼に涙が浮ぶのを知つてゐるか
うまいものを食ふ喜びを知つてゐるか、
全身で働いたあとで飯を食ふ喜び
自分は心から感謝する。[#地から1字上げ](一〇、二五)
眠れぬ者の歌
夜もすがら眠る者は幸福だ。
夜と共に眠る者よ
その面白さうな健康な呼吸よ
沈默の聲よ
幾多の人が集ひ寄つて
さゞめき、喜ぶやうな賑やかさ
『おゝ汝は笑つて居る、何が可笑しいのか』
夜もすがら眠り得ぬ者は不幸だ
彼は病んで居る
他界の人のやうに
幸福に擽られて居る露骨な笑ひを聞き乍ら
涙の浮んだ眼を見開いて居る。
『止めよ、止めよ
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