やがんだりして
一歩も動かず
笑つて笑つて笑ひぬいた、
恐さうに立つては嬉しくなり、そうつとしやがんで笑ひ
その可笑しかつた事
自分と小供は顏を見合はしては笑つた。
可笑しな奴と自分はあたりを見廻して笑ふと
小供はそつとしやがんで笑ひ
いつまでもいつまでも一つ所で
悠々と立つたりしやがんだり
小さな身をふるはして
喜んで居た。

  道端で

道端にベニ色の衣服を着た赤ん坊を抱いた老婆が休んで居る。
母の胎内ですつかりのびた小供の頭の髮は
ところ/″\から長くのびて前へ垂れ
大きなつむりを下げて默々と地上を見詰めて動いて居る。
靜かにおとなしく、孤獨で
未だものを見る勢も無いが、彼はもう動き出しさうに見える。
よそ見してゐる老婆の手からすりぬけて行きさうに見える。
頭がだんだん垂れて行く、地上へ向つて。
その深い姿は日の目の見えぬ他界の蔭に育つたものを思はせる。
地の底を流れる河の渦まく淵から現はれたやうに暗黒で異樣だ。
そこに此世ならぬ顏がもう一つ現はれて居る。
地球が青空の中に包まれて浮んで居るやうに
見えぬ姿に包まれて半分姿を此世に現はして居る。
默々として孤獨で、つくられたまゝ
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