である。
誰もそれを見るものは無い
その異樣な姿を見ると、自ら涙が湧いて來る
その孤獨が自分の胸に觸れて來る。
[#地から1字上げ](一〇、三)
自分は見た
自分は見た。
朝の美くしい巣鴨通りの雜沓の中で
都會から田舍へ歸る肥車が
三四臺續いて靜かに音も無く列り過ぎるのを
同じ姿勢、同じ歩調、同じ間隔をもつて
同じ方向に同じ目的に急ぐのを
自分がぴつたり立止つてその過ぎ行くのを見た時
同じ姿勢で、ぴつたりとまつたやうに見えた。
小さく、小さく、町の隅、此世の隅に形づけられて。
自分はそれから眼を離した時、
自分の側を過ぎ行く人、
左へ右へ急ぐ人が皆んな
同じ方則に支配されて居るのを感じた。
彼等は美くしく整然と一糸亂れ無い他界の者のやうに見えた。
人形のやうに見えた。
自分は見た
夜の更けた電車の中に
偶然乘り合はした人々が
おとなしく整然と相向つて並んで居た。
窓の外は眞暗で
電車の中は火の燃えるかと思ふ迄明るかつた。
自分は一つの目的、一つの正しい法則が
此世を支配して居るやうに思ふ
人は皆んな美くしく人形のやうに
他界の力で支配されて居るのだ。
狂ひは無いのだ。つくられ
前へ
次へ
全102ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
千家 元麿 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング