は恐く、
然し親切相に露骨になり此世以上のものを浮き立たせる。
日が暮れて道を行く旅人は
せつかちに歩いても歩いても、思ふ所に達せず
廣大な夜の潮に押し流され、
道を誤つて居るかと不審を起して立止れば、
天體はぐる/\廻り、
眠たい眼をこすれば稻妻が發し狐に廻されてゐるやうに恐くなり
ます/\せつかちに急いで行けば、幾度も石に躓き
餘りに夜は大きく、人間の小さな無力をつくづく感じる。
然し出しぬけに人は目的地に達すと
鱗がとれたやうに眼がはつきりして
見知らぬ町には澤山間の拔けた光りがともつてその中を人がゾロ/\通つて行く。
餘りの明るさに自分の身の暗さを感じ
苦るしさが胸一杯に滿ちてくる時
出しぬけに自分の足下に氣がつけば
あゝ一生の思ひ出か
遠い/\幼な時
母に抱れて暖に
浮世の波風を外にちんまり行儀に暖つて居た
懷しい懷しい幸福が思ひ出され
疲れ切つて暗い宿屋に辿りつけば
他人の家も吾が家へ歸つたかのやうに生々感じ
煤けたランプの下に暫らく會はない、
國に殘した妻や親子の顏がはつきり現れる。
あゝ夜を支配する廣大なる者よ
御身の胸に遍く人々を掻き抱き給へ。
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