前から仮名遣の問題としてあったのであります。契沖は、むしろ以前からあったその問題を解決するために、古代の実例について調べてみて、実際古代の文献には、その仮名が使い分けられているということを明らかにし確かめたのであります。しかるに龍麿の見出した仮名の使いわけは、従来は何人もこれに気づいたものなく、そういうことは問題にもなっていなかったのであります。龍麿は宣長の研究から導かれて、古典における実例を一生懸命に調べて、はじめてそんな使いわけがあることがわかったのであります。かような、研究をはじめた径路の上には違いがありますが、どちらも仮名の用法の問題であり、ことに仮名の使いわけである点で、共に仮名遣に関するものであります。そうして契沖が研究したのは、以前から仮名遣として一般に知られている問題であるに対して、龍麿が見出したのは、これまで何人にも知られず、且つ上代の万葉仮名にのみあって、後の普通の仮名には見られない奥深いものであるという意味で、龍麿はその書を『仮名遣奥山路』と名づけたのであります。
 それで龍麿は、同じ仮名にあたる万葉仮名に、使いわけがあることを仮名遣の問題として考えていたのであり
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