今日我々が「ア」と読んでいる中にでも「阿」「婀」「鞅」「安」のような色々の文字があって、これらの文字を悉《ことごと》く我々は「ア」と読んでいる。「ア」と読んでいるというのは、我々が「ア」だと考え、皆同じ音だと考えてそう読んでいるのであります。「テ」にしても「弖」「帝」「底」「諦」「題」「堤」「提」「天」こんな色々な字が書いてある。これを我々今日「テ」と読んでいる。字としてみれば皆違った字で、しかも非常に沢山違った文字が使ってある。字が違っているということから言えば「阿」と「婀」と「鞅」と「安」の違いも、これらと「弖」「帝」「底」などとの違いも同じ違いであって、その間に区別はない。それだのに我々は、「阿」「婀」「鞅」「安」等を皆アと読んで同じ音の字とし、「弖」「帝」「底」等を皆テとよんで同じ音であるとし、そして「阿」……の類と「弖」……の類とは互いに違った音の文字だとしているのであるが、それは我々がそういう風に区別しているだけで、昔の人も我々と同じくこれらの文字を「ア」という音「テ」という音に読んだか、また我々が同じ音に読む多くの文字の中、昔は或るものは或る一つの音によみ、或るものは他の
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