ワすが、その中、「キ」と「ミ」とはあらゆる活用形において皆同じ類が用いられ、活用形の違いによって、類がちがうことはありません。そしてその「キ」と「ミ」は、四段連用形に用いるものと同じ類で、すなわち「キ」の甲、「ミ」の甲を用います。ここでも同じ活用形には、違った仮名でも同じ甲類が相伴ってあらわれて来ることが見られます。ただここに疑問なのは「ヒ」であります。他の行では甲類の「キ」「ミ」が用いられているのに「ヒ」だけは乙類が用いられて、同種類の活用の同じ活用形には、甲乙二類の中、いつも同じ類のものがあらわれるという例を破っておりますが、よく見ると、ハ行上一段の語尾の「ヒ」を万葉仮名で書いた確実な例は、未然形と連用形とにしかないのでありまして、終止形以下は、奈良朝のものには仮名で書いた、まぎれのない例がないのであります。ただ訓でそう読んでいるだけであります。奈良朝においてハ行上一段活用の動詞としては「乾る」「嚏《ひ》る」の二語だけでありますが、それが活用した確かな例は、未然・連用の二つの活用形だけで、それにはどちらも「ヒ」の乙類の仮名が用いてあるのであります。それでは未然・連用に「ヒ」の乙類を
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