しまつたので径のへりに尻をむけたこの青瓢箪は、時々雨露をいつぱいふりため、青草を敷いて涼しげに太つてゆくのであつた。幸ひに朝夕潮あびのゆきかへりにこの畠径をぬける近所の子供らにももがれず、此の頃はむしろに敷きかへて先づ健在。
 それに引かへ、垣根の方の長瓢は敷わらも吊もかけなかつたので、地面につけた尻の先がすこし黒いしみになりかけて来た。二三日前の朝、露つぽい草の間にかゞんで私は瓢を吊したり、わらをしいたりしてやつたが、今朝行つて見ると、折角きれいに捲きついた青い葉は、むざんにうらがへしに乱れ、瓢は誰かに頗るぐわんこに荒縄でうごきのとれぬ様しばりあげられてゐた。そして隣畠の南瓜の蔓が勢よく幾筋も瓢垣ねのあはひからこちらへ侵入してゐた。
 旭はすでにポプラ並木を透して光り、征矢《そや》の如く輝き出し、大向日葵の濃蕊の霧がきらめく。市街の空は煤煙でにごりそめ、海上の汽笛にあはせて、所々の工場の笛がなりつゞける。私は更らに愛すべき千成瓢箪の垣へと歩を移し、きまりの様にかがみこんで眺め入る。
 蔓毎にたれ下つた小瓢箪の愛らしさ。くゝり深く丸々と小肥りの青い瓢はうぶ毛が柔らかくはえてゐる。小さい
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