蟻が這つてゐたり、時には暁雨の名残の小つぶな玉が汗をかいたやうにたまつてゐたりして一層愛着をまさしめる。子供らも毎日こゝへ必らずしやがみにきては、二十五なつてゐるとか、葉のかげにもう三つなつてたとか、数へてはたのしみにしてゐた。
 更らにその横手の樹に、やせこけた一本の蔓が中位の瓢をつけてはひのぼつてゐた。沢山の瓢の中これが一番形も面白く俗ぬけがしてゐて、しかもひねくれすぎず、私の一番好きな瓢なのであるが、肥が足らぬのか木かげのせゐか一向ずば/\と成長せず、ほんとの一瓢きりなのである。
 最後にもう一本。之れは子供のつくつてゐるので、二尺たらずのかはいゝ棚に小まゆ程のが、二つ三つ漸く最近になりはじめた。

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此の夏や瓢作りに余念なく
青々と地を這ふ蔓や花瓢
晩涼やうぶ毛はえたる長瓢
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 数年前俳句をつくりはじめた頃、板櫃河畔の仮寓でも大瓢箪をつくつたが、その美事な青瓢は軒に吊るす中作りかたを知らず腐らしてしまつた。

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くくりゆるくて瓢正しき形かな
梯子かけて瓢のたすきいそぎけり
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 今年は
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