の女が豊満な肱をテーブルに投げ出し、注文した料理を待っている。カーテンの透間から花埃がザラザラ吹きこみ、見下ろす町は灯り、電車が織る。白粉をこくぬった給仕女のしな[#「しな」に傍点]、女と男との対話等のけだるさ悩ましさが交錯した春夕の一幕物の場面とも見ゆる。
[#ここから2字下げ]
足袋つぐやノラともならず教師妻 久女
[#ここで字下げ終わり]
前の句の明るく享楽的なのに比し此句はくすぶりきった田舎教師の生活を背景としている。暗い灯を吊りおろして古足袋をついでいる彼女の顔は生活にやつれ、瞳はすでに若さを失っている。過渡期のめざめた妻は、色々な悩み、矛盾に包まれつつ尚、伝統と子とを断ちきれず、ただ忍苦と諦観の道をどこ迄もふみしめてゆく。人形の家のノラともならず[#「ノラともならず」に傍点]の中七に苦悩のかげこくひそめている此句は、婦人問題や色々のテーマをもつ社会劇の縮図である。乳責りなく児、葱ぬく我、足袋つぐ妻の句は作者の境遇がうみ出した生活の為めの作句である。世紀末の幽うつ、悩ましさ逃れがたい運命観をさえ裏付けているが、同じ生活境遇のうみ出した句でも、二の替、カルタ、花疲れ等
前へ
次へ
全28ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉田 久女 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング