句[#「小説的な句」に傍点]
 近代俳句の一つの傾向は、人生の断片を小説戯曲化している事である。

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霜におくりて手も相ふれで別れけり   より江
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 霜の夜道を互に黙々と手さえふれあわで、送り送らるる男と女。何となく燃えしぶった白けた心持で、其儘別れて始末《しま》ったという、別れる迄の小説的な事実。

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カルタ切れどよき占も出ず春の宵   より江
呪ふ人はすきな人なり紅芙蓉   かな女
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 春宵美しいびろど張の椅子に一人の女が、カルタの札を白い指で弄びつつ人待顔に、ひとり占をしている。ドアがあく。小間使が一通の手紙をもってはいってくる。よき占も出ず……小説的な運命の展開……。芙蓉の句。三角関係か夫婦か、兎も角も呪わしく思いこんでいる人がある。けれど逢えば好きなんだと親しみを感じる。そのすぐ下から又蛇の如くからみあう執念さ、呪、疑惑。複雑した短篇物の一シーンである。

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花疲れ卓に肱なげ料理注文   みどり
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 レストランか何ぞの一室、花見疲れ
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