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の風雅な昔めかしい風俗に反し、近代女流の句はもっと真実味のこもった生活相を色濃く写生している。
 (3)[#「(3)」は縦中横] 近代思想をよめる句[#「近代思想をよめる句」に傍点]
 近代女性である彼女らはまた大胆に自由に思想感情を吐露している。

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乳ふくます事にのみ我春ぞゆく   静廼
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 我児に乳ふくませ、家事に没頭して暮す人妻。自己にめざめ個性の成長を願う現代人の思想は、花の色はうつりにけりなと、我容色のおとろえをなげいた小町の歌より幾分理智的である。

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短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎《ステツチマオカ》   静廼
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 乳たらずか或はひよわ児か。火の様に乳責りなく児を、短夜の母は寝もやらで、もてあまし、はてはいっそ捨っちまおうかとさえいらいらする母の焦慮と当惑とを、須可捨焉乎という言葉で現わしているのは甘《うま》いと思う。

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寒風に葱ぬく我に絃歌やめ   久女
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 向うの料亭からは賑かな絃歌のさざめきが遊蕩気分
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