下げ終わり]

 病は疾として我生きんと、生命の闘をよみ、病苦悩みの中から一切を俳句に打こみ安心境を見出すせん女氏。

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よき母でありたき願ひ夜半の冬   せん女
極月や婢やさしく己が幸   同
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 何らの技巧もなく、松の樹の如き性格の一面に優しさをしみ出させ、

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母が手わざの葛布をそめて着たりけり   せん女
わが編みて古手袋となりにけり   同
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 この二句浮華軽佻ならぬ性格を確《しっか》りと出している。せん女氏は大正女流中の年長者、墨絵の如く葛布の如き手ざわりの句風である。
 二十幾歳で早世したみさ子氏[#「みさ子氏」に傍点]は、其性白萩の如く優雅純真。足の固疾に対してもすこしの不平もなく、大正女流中唯一の年少処女俳人。

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雨ふれば雨なつかしみ菊に縫ふ   みさ子
菊人形ときけど外出の心なく   同
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等花のさかりの年頃を引籠りがちに、只俳句を生命として暮し、ひたすら父母をたよる乙女心から父母をよめる句頗る多く、

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