蒲の芽は、木版の風景絵の如きうるおいを見せている。古の女流中では天明の星布尼、大景叙景の客観句に富み佳句も少くない。
 (12)[#「(12)」は縦中横] 線の太い句[#「線の太い句」に傍点]
 習作としての純客観写生から一歩、主観客観合一の境地へ進むと、もはや単なる写生の為めの写生句ではない、線の太い句となるのである。

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春雷や夜半灯りて父母の声   みさ子
茎漬や明日柏木に月舟忌   みどり
奥の間に句会しづかや松の内   清女
夜寒児や月に泣きつゝ長尿   静廼
時雨るゝや灯またるゝ能舞台   あふひ
父逝くや明星霜の松に尚ほ   久女
山駕にさししねむけや葛の花   せん女
玉芙蓉しぼみつくして後の月   より江
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     三 境遇個性をよめる句

 須磨の山荘に久しい宿痾を養っているせん女氏[#「せん女氏」に傍点]には病の句が沢山ある。

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病んでさへおればひまなり菊の晴れ   せん女
鈴虫や疾は疾我生きん   同
極月や何やらゆめ見病みどほし   同
病みながら松の内なるわが調度   同
[#ここで字
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