な描写が全部であるかの如くも思えるが、大景を叙した句も少くない。而し一般的には女流は叙景叙事には男子の如き技量なく、矢はり彼女らの本領は女らしい材料、捉え所、において光っている。

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遥かなる藪浪うつて驟雨かな   あふひ
高き樹の落葉たはむれて露の原   同
群雀稲にくづれて山青し   同
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 之等の句は、もはや男女の区別なき写生の技で光っている。

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春昼や出船のへりのうす埃   みさ子
大池のまどかなる端や菖蒲の芽   同
冬凪や小舟をつれてかゝり舟   せん女
りんだうや入船見おる小笹原   久女
塀の外へ山茶花ちりぬ冬の町   かな女
蓮さくや暁かけて月の蚊帳   より江
身かはせば色かわる鯉や秋の水   汀女
落葉山一つもえゐて秋社   みどり
大比叡に雷遠のきて行々子   春梢女
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 出舟のへりのうす埃。小舟をつれてかかりおる親舟。塀外へちる山茶花のわずかな色彩。蓮池と、月の蚊帳と。男性の句に比してやはり女性らしいみつけどころを捉えている。美しくなだらかである。殊に大池の端の菖
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