あふひ
いつとなく木立もる灯やくれの秋   同
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 秋袷の女がいる。外には菊がさき小雨がふり出した。やがて漸く雨のふっているのに気がつく、しみじみしたいい句である。雨夜の一とき、月光をうけて雨あしが白くうき見える新涼の感じ。いつとなく木立もる灯かげにふと気づいたという、秋も末の、落葉しそめた夕寒い感じ。三句とも絶えず物事に注意ぶかい観照の目をむけ、久しく凝視していて、或時の変化刺激に初めて出来た句であって時間の経過を示している。

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山茶花や二つとなりし日南猫   清女
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 山茶花が咲いている。日向の縁先かなにかに一匹の猫がつくばっている。暫くして又見ると猫は二匹となっていたという、小春らしい静かな時間的変化を写生している。

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紫陽花に秋冷いたる信濃かな   久女
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 山国の時候の急変と時の経過をよめる句。
 (11)[#「(11)」は縦中横] 大景叙景の句[#「大景叙景の句」に傍点]
 此時代の句は、習作を主とした為めに、繊細部分的。写生の為めの写生句、単的
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