蕉園の絵にでもありそうな光景を目に見る如く写生している。(ロ)[#「(ロ)」は縦中横]、鳥が飛んできて、枯柳に止った。風が吹く。柳と共に吹かれていた鳥は軈《やが》てとび去ったという、一羽の鳥の動作を客観的に叙して、秋夕の身にしむ淋しさを主観ぬきで叙している。(ハ)[#「(ハ)」は縦中横]は舞台にせりあげてくる菊人形を、ゆらぎつつ[#「ゆらぎつつ」に傍点]の五字で面白く写生している。
 (2)[#「(2)」は縦中横] 取扱いの近代化と散文的傾向[#「取扱いの近代化と散文的傾向」に傍点]

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炭どんかえして餅やく子らの時雨宿[#「子らの時雨宿」に傍点]   あふひ
除夜の鐘襷かけたる背後より   静廼
三味ひくや秋夜の壁によりかかり[#「よりかかり」に傍点]   みどり
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 之等は材料は有きたりの物乍ら、取扱い描出が嶄新である。時雨の季感は従であって、此句の主眼は餅をやいてる子供らなのである。襷がけでせっせっ[#「っ」に「(ママ)」の注記]と働いている背から除夜の鐘がなるといい、壁によりかかって三味をひく女の姿を中心に描き、瞬間的動の自由な手
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