、道助は矢張り先刻からの退屈の惰力で「うん/\」とか何とか云つたきりだつた。夫《それ》を見ると彼女は硬い笑ひを浮べ乍《なが》ら
「つまり心の何処《どこ》かにちよつと忍ばせて置いた小つちやなことから大きな秘密が生れることにもなるのだわね。」と云つて今度は真正面《まとも》に彼を凝視した。
「あゝこれは遂々《とう/\》そんなところまで引張つて来たのだ!」さう考へながら道助は故意《わざ》と揶揄《からか》ふ様に「そしてその小つちやなことと云ふのは女の胸の方に忍びこんでゐることが多いんだね、第一女は隠すことを知つてゐるからな。」さう云つて笑つた。
「いゝえ、いゝえ、」と彼女はカブリを振りながら云つた。それから急に湧き上つて来る興奮に震へながら、
「あなたは妾に信頼して下さらない。」と細い声で云つてきつと口を緘《つぐ》んだ。道助は少し険《けは》しい眼つきをした。
「あなたは妾に見せられないものがあるのでせう、いゝえ、あの手箪笥の引き出しには何が蔵《しま》つてあるか、妾にはよくわかつてゐます。」
「秘密の城を築くと云ふのはおまへのことだ。」と道助は故意《わざ》と冷笑するやうに云つた。
「妾はあなたに見
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