やま》つて薄明かりのさしてる中を長い雲が走つてゆく。

     八

 次の日、ふと道助は昨日腹立ち紛《まぎ》れに物置の中へ抛《はふ》り込んでそのまゝになつてゐる小鳥のことを思ひ出した。もう昼近くのことで磨《す》り餌《ゑ》をやる時刻はとつくに過ぎてゐたのだ。彼は慌てて物置の戸を開いた。
 壁の節穴から一条の光線が差し込んでゐる。小鳥はその方へ首を伸ばすやうにしてぢつと泊まり木にとまつてゐた。道助は密《そ》つと側に寄つて籠を取り上げた。然し小鳥はまるで放心したやうに身動きもしない。嘴《くちばし》で掻き乱したものか細かい胸毛が立つて居り、泊り木に巻きついてゐる繊細《かぼそ》い足先には有りつ丈けの力が傷々《いた/\》しく示されてゐる。
 道助はちよつと籠をつゝいた。とすると小鳥は二三度呼吸するやうに翼を拡げた。その動作が如何にも緩漫《くわんまん》で、まるで焦点の合はぬ物体を無理に二つ重ねたと云つたやうな不自然な感じを起させた。
 道助は妻を呼んだ。
「闇《くら》かつたからきつと眠り過ぎたのよ。」と彼女が云つた。
「お腹が減つてゐるんだよ、何故餌をやつて呉れないんだ。」そんなことをつけ/\云
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