《とんぼ》釣りに蜻蛉の行衛《ゆくえ》をもとめたり、紙鳶《たこ》上げに紙鳶のありかを探したりする煩《わずらわ》しさに兄は耐えられなくなってしまった。そうして雑草を踏みしだいて駈け廻ったり、ゴム※[#「毬」の「求」に代えて「鞠」のつくり、第4水準2−78−13、10下−5]《まり》をはるばると投げ上げたりする輝かしい遊びからも彼はすっかり遠ざかってしまった。彼は肥って色が白かった、それが黒眼鏡を掛けだしてから、いっそう静な清浄な感じのする子供になった。彼を憫《いとお》しむ言葉が、弟らの前で、しばしば周囲の人々の口に上った。歌津子がこまごまとした毛糸細工を贈ったり、小さな南京玉の飾りを兄の胸へつけてやったりすることもたびたびあった。
 弟は勝気な健康な子供であった。それが、いつの間にか何かしら憂鬱《ゆううつ》を感じるようになった。
 ある晩、村の社《やしろ》の祭礼で、兄を真中に、歌津子と弟とが両側に並んでお参りをした。帰りは、紙鉄砲や折紙細工の批評や、焔の上に手を翳《かざ》して平気でいた魔術師の噂さなどで、彼らはそれぞれ興奮していた。
 人通りの少いところへ来ると、兄は先きにたってピイピイと
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