青草
十一谷義三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)微《かすか》な
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)[#「毬」の「求」に代えて「鞠」のつくり、第4水準2−78−13、10下−5]
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一
杉兄弟は支配人の娘の歌津子とほとんど同じ一つの揺籃の中で育った。彼らが歌津子の母親の乳房を見て甘い微《かすか》な戦慄を覚えたこともある。歌津子が彼らの父の大きな手で真紅《まっか》な帽子を被《かぶ》せられて、誇らしさとよろこびに夢中になったこともある。それから、細い色糸が、彼ら三人の手から手へ、唄に合せて、幾度、美しい幻影を織ったことだろう。弟の手がそっとうしろから彼女の清い眉の上を蔽うたこともある。兄が胴を持って彼女のからだを色紙の風車を廻すように、日なたできりきりと振り廻したこともある。
そうして、ある日、彼らの明るい淀《よど》みのない夢の世界に、決定的な出来事が起ったのであった。
その日、弟が鬼にあたって、兄と彼女とが手を携《たずさ》えて遁《に
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