らは大きな机の前へ行った。机の上にはアルコホル漬けにした蜘蛛《くも》の壜《びん》がいくつも並んでおり、その前の硝子器の中にも一匹大きなやつがじっと伏せられている。それがよく見ると、四対ある単眼の七つが、押し潰されて、そこに黒ずんだ粘液が盛り上っているのだ。
弟はそっとそれとその前にある黒眼鏡をかけた兄の蒼白い顔とを見較べた。
「これは盲《めくら》じゃないんだぜ。」そう言って兄は、アルコホルランプの焔で引き伸ばした細い硝子の棒の先端を蜘蛛の眼のところへ近づけた。蜘蛛は四ミリほどの褐色の剛毛の立っている脚で緩慢《かんまん》に方向を転じた。兄は冷く笑った。それから彼の前に並んでいる犠牲者たちの歴史を説明した。
彼はまず蜘蛛の雄と雌を捕えた。そしてその毛並みの艶《つや》やかな美男の雄の単眼の一つへ硝子の針を刺し通してから、これを花嫁に与えた。一群の子が生れた。拡大鏡で見ると、子は一人一人立派な眼の持ち主だった。子と子が結婚して一群の孫が生れた。孫のうちで一匹怪しいのがいた。それを飼養しておいて今日試験したのである。彼はこの蜘蛛の完全な眼を一つずつ硝子針で潰《つぶ》した。そしてその怪しい単眼
前へ
次へ
全16ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
十一谷 義三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング