。
午后一時男に陪乗して敦賀を発し米原で告別して下り列車に乗移つた。車室の中僕の外唯二個の客あるのみ。僕は肱懸に頬杖ついて熟々と男の人と為りを想うて大阪へ下つた。
遊露記(三)
滞阪二日の間俗事多端殆ど寸隙がなかつた。俗事に趣味はない、しかしそれが千百と一身に蝟集して息もつけぬ処に無限の玩味がある、閑散は僕の尤も憎む所だ。
出発の前夜同僚諸子僕の為に祝宴を築地のタケシキに張つて僕の行色を壮にして呉れた。宿に帰つてから、東京の某君に柬せんと欲して徹宵筆を措かず表書を書了る頃、更既に明けたり、
十七日午前七時九分大阪発、村山社長素川君等見送られる、三ノ宮で下車すると僕と形影相追随するが如き長田君ステーションで僕を迎へて呉れた。僕の交遊は寧ろ寡いが、有る所は皆親友で皆此の如く信切に世話して呉れる。僕は薄運だと人もいひ僕もおもふけれど、此点を思ふと必ずしもさうでない。
是より先大阪の正金支店で露都宛の為替を組まうとして拒絶された。神戸の支店でも右同断。拠なく香港上海銀行で若干の金をサーキュレーチング、ノートに易へて纔かに目的を達し得た。後遊者の為にもと爰に其次第を記してお
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