い厚い志が嬉しくてツイ飲過して泥の如く酔ひ車上に扶け載せられて旅宿に帰り前後不覚に眠入つた。
間もなく宿の嬶に驚かされて跳起※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]忙として車を埠頭に飛ばし、小蒸気に飛乗つて鳳山丸に乗り付けデッキへ上つて見ると、サルンと覚しき室の前に、ゴタ/\と集つた人影が見える。或は背広、フロック、袴羽織思ひ/\の服装で、誰が誰やら一寸は薩張り分らなかつたが、能く見ると其中に霜降の背広に黒の山高帽を冠り、鼻眼鏡をかけた英姿颯爽の一偉丈夫がある。出迎への人々交る/\其前へ出て敬しく叩頭するので、正面の僕にも直ぐ其と知れた。
で、人の後に従いて前の人の退くを待つて其人の前に出て名刺を出してお辞儀をすると、確か竜居秘書だつたと思ふ、側から二葉亭四迷君ですと紹介せられる、男爵はおゝさうかと跋を合はされた、二葉亭四迷が何だか御存じあるべき筈はなし、恐らく一寸戸惑ひをされたらう、落語家といふ面相でもなし、釈子でもなさゝうだし、はゝあ、分つた、矢張伊藤某の亜流で壮士上りの浪花節語りだな――位が落だろう、ヘン好い面の皮だ。
上陸せられた後の模様は当時の電報に尽きてゐるから、爰
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