ならず、読者に対してはどうかと云うに、これまた相済まぬ訳である……所謂羊頭を掲げて狗肉を売るに類する所業《しわざ》、厳しくいえば詐欺である。
之は甚《ひど》い進退維谷《ジレンマ》だ。実際的《プラクチカル》と理想的《アイディアル》との衝突だ。で、そのジレンマを頭で解く事は出来ぬが、併し一方生活上の必要は益※[#二の字点、1−2−22]迫って来るので、よんどころなくも『浮雲』を作《こしら》えて金を取らなきゃならんこととなった。で、自分の理想からいえば、不埒な不埒な人間となって、銭を取りは取ったが、どうも自分ながら情ない、愛想の尽きた下らない人間だと熟々《つくづく》自覚する。そこで苦悶の極、自《おのずか》ら放った声が、くたばって[#「くたばって」に傍点]仕舞《しめ》え[#「え」に傍点](二葉亭四迷)!
世間では、私の号に就ていろんな臆説を伝えているが、実際は今云った通りなんだ。いや、「仕舞《しめ》え!」と云って命令した時には、全く仕舞う時節が有るだろうと思ったね。――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にとると「くたばッて仕舞え!」という事は、今でも有意
前へ
次へ
全19ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング