リー》、其等が無ければ、何時迄経っても真の研究は覚束ないと思い出した。そんなら銭の費《かか》らん研究法をしなくてはならんが、其には自分を犠牲にして解剖壇上に乗せて、解剖学を研究するより外仕方がない。当時は、医学上の大発見の為に毒薬を仰いだりした人の話が頭にあったから、そんな犠牲心も起したんだ。即ち私の心的要素《マインドスタッフ》を種々の事情の下に置いて、揉み散らし、苦め散らし、散々な実験《エクスペリメント》を加えてやろう。そしたら、学術的に心持《メンタルトーン》を培養する学理は解らんでも、その技術《アート》を獲《え》ることは出来やせんか、と云うので、最初は方面を撰んで、実業が最も良かろうと見当を付けた。それで、実業家と成ろうと大分焦った。が併し私の露語を離れ離れにしては実業に入れぬから、露国貿易と云うような所から段々入ろうと思った。そして国際的関係に首を突込んで、志士肌と商売肌を混ぜてそれにまた道徳的のことも加えたり何かして見ると、かのセシルローズなぞが面白い人物と思われるようになった。単に金持が羨《うらやま》しいんじゃない。形は違うが、一つああいう風の事業をやろうと云うのを見当として
前へ
次へ
全19ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング