された頭脳《ヘッド》で、よくも己惚《うぬぼ》れて、あんな断言が出来たものだ、と斯う思うと、賤しいとも浅猿《あさま》しいとも云いようなく腹が立つ。で、ある時|小川町《おがわまち》を散歩したと思い給え。すると一軒の絵双紙屋の店前《みせさき》で、ひょッと眼に付いたのは、今の雑誌のビラ[#「ビラ」に傍点]だ。さア、其奴《そいつ》の垂れてるのを一寸瞥見しただけなんだが、私は胸がむかついて来た。形容詞じゃなく、真実《ほんと》に何か吐出しそうになった。だから急いで顔を背《そむ》けて、足早に通り抜け、漸《やっ》と小間物屋の開店だけは免れたが、このくらいにも神経的になっていた。思想が狂ってると同時に、神経までが変調になったので、そして其挙句が……無茶さ!
 で、非常な乱暴をやっ了《ちま》った。こうなると人間は獣的嗜慾《アニマルアペタイト》だけだから、喰うか、飲むか、女でも弄《もてあそ》ぶか、そんな事よりしかしない。――一滴もいけなかった私が酒を飲み出す、子供の時には軽薄な江戸ッ児風に染まって、近所の女のあとなんか追廻したが、中年になって真面目になったその私が再び女に手を出す――全く獣的生活に落ちて、終《
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