しまい》には盗賊《どろぼう》だって関わないとまで思った。いや、真実《ほんと》なんだ。
 が、そこまでは豈夫《まさか》に思い切れなかった。人生は無意味《ノンセンス》だとは感じながらも、俺のやってる事は偽《うそ》だ、何か光明の来る時期がありそうだとも思う。要するに無茶さ。だから悪い事をしては苦悶する。……為《し》は為ても極端にまでやる事も出来ずに迷ってる。
 そこでかれこれする間《うち》に、ごく下等な女に出会った事がある。私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。無論浅薄じゃあるけれども、其処にまた活々とした処がある。私の様に死んじゃ居ない。で、其女の大口開いてアハハハハと笑うような態度が、実に不思議な一種の引力《アットラクション》を起させる。あながち惚れたという訳でも無い。が、何だか自分に欠乏してる生命の泉というものが、彼女《むこう》には沸々と湧いてる様な感じがする。そこはまア、自然かも知れんね――日蔭の冷たい、死というものに掴まれそうになってる人間が、日向《ひなた》の明るい、生気溌溂たる陽気な所を求めて、得られんで煩悶している。すると、議論じゃ一向始末にお
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